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本館・徒然日記:CLAMP作品の感想などを綴ってます。雑誌のネタバレですので、コミック派の方はご注意ください。
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揺れる風景から夜叉軍の影が見えたと思った瞬間、小狼の目に黒鋼の姿が飛び込んできた。
「・・よう、ガキ。」
加勢してあげることは出来る距離だが、真路もあえて手は出さなかった。
小狼は緋炎で黒鋼の蒼氷を受け止めた。しばらく押されていたようだったが、突然小狼が黒鋼を突き飛ばした。小狼は不思議そうに自分の手を見る。真路は不思議そうに小狼を見ていた。

その時、隣の阿修羅王の空気が変わって、二人は王の方を振り返った。何とも言えない気迫で満ちていた。
阿修羅王は真路や倶摩羅が手を出す前に、辺りの夜叉軍を斬り倒し、しまいには馬から下りて、一人前へ進み出す。
「阿修羅王・・?」
真路はそう言いながら、ついていこうと手綱を引き寄せた。
「来るな。」
「しかし!」
今度は倶摩羅だった。
「来るなと言っている。」
倶摩羅を怯ませるだけでなく、真路も圧されるような気迫。
阿修羅王の回りに舞う炎のように、近寄りがたい空気をピンと張って、そのまま真っ直ぐ夜叉王の前へと跳ぶ。

「・・夜叉王、決着を着けよう。私は、己の願いを叶える。」
夜叉王も抵抗する気配はなかった。そのまま、阿修羅王の剣は夜叉王を貫いた。剣を握る阿修羅王の手と夜叉王の躯が触れ、夜叉王は阿修羅王の背中に手を回した。
「・・阿修羅。」
二人は抱き合う形になった。
「阿修羅王・・・!!」
王は顔を上げて、夜叉王の顔を見つめた。夜叉王の右の頬からすうっと傷が入って、右目に達する。
「・・私が付けた傷だな。」
夜叉王は阿修羅王のその手にキスし、阿修羅王は夜叉王の右目にキスした。すると夜叉王の体は砂のようにさらさらと解け始め、やがて服と剣のみが阿修羅王の腕の中に残った。
その中から光が放たれて、それは中へと浮かぶ。それは高く高く上がって、羽根であることが分かった。
「サクラの羽根!!」
阿修羅王は残された夜叉王の剣を強く抱きしめた。小狼はまだ不思議そうだった。
「こちらへ、小狼。」
小狼は走って上へ登り、王の傍に寄る。
「夜叉王は・・・」
「死んだ。もう随分前になる。」
夜叉王は、幻だった。羽根の力で現れた幻。
「私が付けた傷のない夜叉王でも、私には消せなかった。もう、とうにいない只の幻でも。」
小狼は複雑な気持ちだった。何も言えない。
「探していた物はこれか?」
「・・はい。」
阿修羅王は羽根を小狼に差し出した。
「では、返そう。」
羽根は小狼の手中に入る。
「望みは叶ったか?」
「・・・はい。」
阿修羅王はにこりと微笑んだ。そして剣を地面に突き刺す。
「月の城は、阿修羅が制した。」

月光が王の背中から差し込み、二人を照らす。幻想的な様子だった。
「願おう。我が真の願いを。」
剣を刺したところから光が溢れ、轟音と共に城は崩れ始める。
町も、月の城も、ざわめき、人々の声が絶えず、轟音はそれをも掻き消す勢いだった。
「・・・やはり我が願いは、月の城を手に入れても叶えるには重すぎるか。」
「阿修羅王!!城が崩れます!早くこちらへ!」
「いやだ。」
王はそこから一歩も動こうという気配がない。倶摩羅が必死に手を伸ばす。
「王!早く!」
「いやだと言った。」
王の手には大事そうに夜叉王の剣が握られていた。真路は眉を細め、倶摩羅の肩を掴んだ。
「何をする!」
「危ないです。下がってください。」
―――来ちゃ駄目だ!
「しかし、王が!!」
―――でも!!

『でも!久人!!』
真っ白な雪に真っ赤な、血。足を撃たれて、彼はもう動けなかった。狙撃手は一人ではなく、久人に敵軍が迫ってきていた。
『数が多い。来たら君までやられる!来たって、どちらもやられるだけだ!』
一発、また一発。久人の腕、足に弾が当たる。久人は顔をしかめた。
『君は今、このチームのリーダーだよ!?君がいなくなったら、みんなやられちゃう!!』
真路の後ろには任されたチームの子ども達がいた。
『君の役目は、チームの人を出来るだけ多く帰すことだ!』
久人は歯を食いしばって、体を起こそうとする。
『君は必ず生き残って!』
そして最後に、にこりと微笑んだ。
『・・・君のしたいこと、結局聞かなかったけど・・、きっと、叶えてね。』

真路は息をのんだ。
「ここからでは間に合いません!君が巻き添えを食らったら、王が悲しむ!」

阿修羅王と小狼も地面の亀裂によって、引き離されていく。
「諦めれば、そこですべてが終わる。願いつづけろ。強く、強く。」

倶摩羅が振り返ると、思いの外、真路の眉は震え、悲しく悔しい気持ちが溢れていた。
「・・それに、あれは阿修羅王の願い・・・です。私は阿修羅王に王の望みのままに動くと約束しました。」


「たとえ、己が何者でも、他者が己に何を強いても。己の真の願いを、願い続けろ。」
それは小狼の行く末を踏まえた言葉だったが、彼は、少なくともこの時それに気付くことはなかった。
願いを叶えられない城は、空に浮かぶ幻想的な世界は、崩れていくだけだった。大きな岩が、王の頭上に降ってきた。

「阿修羅王ーー!!」
真路は傍にいる人の矢を奪って、矢を一度自分の足元に試し撃ちし、それから素早く落ちてくる岩に矢の先を向けた。小狼は刀を抜いて、地面を蹴った。
真路は矢を放ち、小狼は刀を振り下ろす。小狼が王の傍に着地したときには真っ二つだった。
真路は弓を手元でくるりと回して、持ち主の手の中に落とした。
「・・・一応、守ると言いましたから。」

王は驚いて二人を振り返り、微笑む。
「・・昨日よりは今日、今日よりは明日。戦う度に強くなる。そういう強さだな。」
轟音は更に大きくなっていって、月の城は大きく揺れる。
「・・・願いを叶えられぬ城は崩れゆく・・か。」
阿修羅王は寂しく夜叉王の剣に目を落とした。
「私の真の願い・・・夜叉王を蘇らせる事はやはり出来なかったな。」

真路は初めて城に入った時を思い出す。
「真路、と言ったな。」
「はい。」
「・・真路の望みは何だ?」
突然の質問に、真路は少し驚いた。
阿修羅王は真路の答えを待ち、真路は答えに迷った。二人の間に長い沈黙があって、真路は口を開いた。
「・・・さあ。」
答えられると思っていた。しかし、実際は口に出すことも出来ないくらい、ぼんやりしたものだったのかもしれない。
「・・一体、何だったんでしょうね。」

きっと、小狼だったら答えた。阿修羅王も、聞かれたら答えられていた。たとえそれが、叶うとも限らない願いであったとしても。
真路は悲しく阿修羅王の姿を見上げていた。

しかし私は答えられなかった、そして今も答えられないだろう。
彼らの強さはきっとそこにあって、私の弱さはきっとそこにある。

私は、何故旅をしている?何故、ここにいる?
自分の中で自分に問いかけ、自分で答え・・それを何度繰り返しても、答えは出ない。
小狼は、きっとこれからも強くなる。いずれ私など追い抜かれてしまうだろう。
強さは、何かを願い、それを叶えようとする思いの強さは、その人のためにならないのか?
それは、まだわからない。でもその可能性を、信じてみたくなった。

「・・・『死者を蘇らせる事は誰にも出来ない。たとえ、神と呼ばれる存在ものでも。』おれの父さんが言っていました。」
月の城は原型をも崩れ始めた。
「『だから限りある時間を自分が信じるものの為に精一杯、生きるように』と。」
「・・よい父上だな。」
阿修羅王の足元が大きな音を立てて削られる。
「崩れる!!!」
小狼は阿修羅王に手を伸ばした。王は小狼をそこから離すために剣を向け、その炎で小狼を突き飛ばした。
「王ーーー!!」
小狼の声はあっという間に王から遠ざかっていく。それを阿修羅王は見届けていた。飛ばされてきた小狼を黒鋼が片手で受け止める。
辺りは歪み渦巻いて、やがて阿修羅王の影も小狼達からは見えなくなってしまった。

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この紗羅・修羅ノ国編は小狼、真路と阿修羅王に重点を置いてるつもりので、あえてあまり省きませんでした。

でも倶摩羅と真路の会話シーンと阿修羅王と小狼のシーンが同時展開だという事がちょっとわかりにくかったかも・・・;
さらに回想シーンが多い九話でした。
次回、ようやく合流ですね。
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