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「おのれ!夜叉王!!」
倶摩羅の見たその先に長く黒い髪に黒い瞳の男がこちらを見下ろしていた。
阿修羅王の視線もまた夜叉王に向けられていた。
しかしそれに敵意は感じられなかった。不安定に揺れる辺りの様子は夜叉王を見つめる阿修羅王の雰囲気に似たものがあった。
そして、真路の見つめる先も幻のように消えてしまった。寂しさのせいか、何だか少し、後悔に似た気持ちが流れ込んだ。
阿修羅王は馬を小狼の近くに寄せる。
「怪我は?」
「大丈夫です。」
「そうは見えないが・・」
にこりと微笑んで、小狼に手を差し伸べた。
「それが、小狼の望みの強さなのだな。」
強さ・・・
―――強くなれ、真路。
真路の頭にそんな言葉が浮かんだ。
人が人を殺すのに大した理由なんていらない。
相手が来る、そして殺される、奪われる、だから戦う。だから殺す。
自分が犠牲になってまで、自分を殺そうとする者に抵抗しない者はいない。みんな生きたい。
生と死とのギリギリの線の間で生きている。
死から少しでも離れるために武器を持ち、隙を狙い、ゲリラを起こす。
余計な見栄や意地、自分の立場を守るために、国が荒れようと、文字も読めない足し算も出来ないような者ばかりになろうと、負けを認めない。負けたら黙って自決しろと言う。
大人の男は言うまでもなく、後何年かで兵役の子供までもが足りないとなれば、孤児なのを良いことに、男女問わず、兵役からは程遠いような子供まで動員する。
みんながみんな、自分達のことで精一杯で、それがまた、緩まることなく、新たな悪循環を生む。
乾くことのない泥沼だった。
全てを飲み込むまで、それは国を腐らせていった。
貰った部屋の戸を閉めてから、ファイは口を開いた。
「あえて名乗りでないなんて、いい先生だねぇ。黒様。」
ファイは黒鋼に貰ってきた一升瓶を渡した。
「で、どうだった?小狼君は。」
「まだまだ、だな。」
「きびしー。」
にこりと笑う。
「・・でも、真路ちゃんは気付いてたねぇ。黒ろんだって。」
「ああ。」
あの状況で、どんな事情があろうと真路が小狼を放っておけない事は二人には分かっていた。言葉だけだったのは、相手が黒鋼だと分かっていたからだ。
―――すべき事があるんでしょう!君はここに死にに来たわけじゃないでしょう!
「それに、あの女は切羽詰まると口調が変わるからな。」
―――動くな!
「・・というか、それが本当の口調なんだろうけどな。」
黒鋼は真路の腹に刀を突きつけ、真路に首元に刀を突きつけられた時のことを思い出す。
あの戦いが長引かなくて、本当は良かったのだ。
彼女の手は小刻みに震えていた。続けていれば、黒鋼が明らかに手を抜くかしない限り、真路は黒鋼にやられるしかなかったはずだった。
城内にはいると、サクラはもう目が覚めたようで、真路に走り寄ってくる。
「血だらけ!大丈夫!?」
「あ、いやこれは返り血です。血なまぐさいところを見せてしまいましたね・・。」
サクラは怪我はないと聞いて、安堵したようだった。
真路はもうすぐ後ろから来るはずの小狼の方を振り返りながら「それより・・」と言った。
「彼の方を治療してあげてください。薬箱、借りましたから。」
真路は薬箱をサクラに手渡す。
「私は手当て、下手くそですしね。」
にこりと微笑んだ。
その後ろから、案の定、傷だらけの小狼が戻ってきた。サクラは驚いて、駆けていき、部屋で小狼の治療を始めた。
「・・では、真路の傷の手当てはこちらでさせよう。」
「・・・有り難う御座います。」
黒鋼の刀を握ったときの傷と、後はかすり傷だけだったが、今は、二人から離れるべきだし、離れておきたい気がした。
「しかし、一緒にいなくて良かったのか?」
「お邪魔してしまいますよ。」
通りすぎ際の二人は何だか和やかだった。
「・・それに。私はあの二人を見ていると、何だか自分が本当に・・何だか、劣等感ばかり感じてしまうんですよ。」
いつもと変わらない調子で言ったが、声は明るくならなかった。
「小狼も、サクラも、なんていうか・・純粋で、真っ直ぐで・・・強いから。」
そうしていつの間にか、顔は少し俯かせてしまった。
「・・私は今まで、自分ばかりになってましたから。今一番大切だと、思っていた人ですら、私は自分の浅はかな願いよりも上に選ぶことが出来なかった・・・。」
少し間をおいて、「・・最悪ですね。」と言った。
「それから言えば、私もそういう事になるな・・。」
真路は驚いて、阿修羅王の横顔を見たが、それ以上言及するつもりが無いのを察して、真路はそれ以上は聞かなかった。
しばらく二人は黙っていたが、不意に真路が口を開いた。
「・・”強さ”って、一体何なんでしょうね?」
あまりにも唐突だったが、阿修羅王は特に驚いた様子はなかった。
「力の強さは見れば分かります。でも、心の強さ、なんてどうしたら強いことになるんでしょうか?」
「・・何故だ?」
「昔、少なくとも私が思う中で心が強い人がいました。でもだからこそ、その命を縮めた・・。」
―――私は戦う力を得ても、やっぱりまだ無力だよ。
―――僕は地位も権力もないただの子供だけど・・
「身を滅ぼすとしても、それは強さと言えるんでしょうか?そもそも、私の考える”強さ”は他の人が考えるものとは違っているんでしょうか?」
―――でもせめて、大切な人だけは、この手で守りたいって思うの。
―――この戦争は絶対僕達の代で終わらせる。その為に、僕は戦おうって思ってる。
久人の言った事は大それすぎていて、無理だろうと思ったけれど、それでも凪と変わらず、真っ直ぐでいい目をしていた。
「・・私は、小狼君を見ていて、始め、ああ彼もまた、あの子の行った道を辿るんだなって、思いました。」
阿修羅王は黙って聞いていた。
「でも、彼は危なっかしいけど、生き続け、そしてやると決めたことをやっています。」
「探しているものを手に入れる事、か。」
「はい。・・・他の一緒に旅している人達も強いけど、それぞれ違った強さだなって思いました。特に、その一人は見ていて不安な強さ、ですけど・・・。」
真面目な顔を少し俯け、そして上げた。
「・・旅してるうちに、そもそも”強さ”って、何なんだか、分からなくなってきてしまいました。」
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倶摩羅の見たその先に長く黒い髪に黒い瞳の男がこちらを見下ろしていた。
阿修羅王の視線もまた夜叉王に向けられていた。
しかしそれに敵意は感じられなかった。不安定に揺れる辺りの様子は夜叉王を見つめる阿修羅王の雰囲気に似たものがあった。
そして、真路の見つめる先も幻のように消えてしまった。寂しさのせいか、何だか少し、後悔に似た気持ちが流れ込んだ。
阿修羅王は馬を小狼の近くに寄せる。
「怪我は?」
「大丈夫です。」
「そうは見えないが・・」
にこりと微笑んで、小狼に手を差し伸べた。
「それが、小狼の望みの強さなのだな。」
強さ・・・
―――強くなれ、真路。
真路の頭にそんな言葉が浮かんだ。
人が人を殺すのに大した理由なんていらない。
相手が来る、そして殺される、奪われる、だから戦う。だから殺す。
自分が犠牲になってまで、自分を殺そうとする者に抵抗しない者はいない。みんな生きたい。
生と死とのギリギリの線の間で生きている。
死から少しでも離れるために武器を持ち、隙を狙い、ゲリラを起こす。
余計な見栄や意地、自分の立場を守るために、国が荒れようと、文字も読めない足し算も出来ないような者ばかりになろうと、負けを認めない。負けたら黙って自決しろと言う。
大人の男は言うまでもなく、後何年かで兵役の子供までもが足りないとなれば、孤児なのを良いことに、男女問わず、兵役からは程遠いような子供まで動員する。
みんながみんな、自分達のことで精一杯で、それがまた、緩まることなく、新たな悪循環を生む。
乾くことのない泥沼だった。
全てを飲み込むまで、それは国を腐らせていった。
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貰った部屋の戸を閉めてから、ファイは口を開いた。
「あえて名乗りでないなんて、いい先生だねぇ。黒様。」
ファイは黒鋼に貰ってきた一升瓶を渡した。
「で、どうだった?小狼君は。」
「まだまだ、だな。」
「きびしー。」
にこりと笑う。
「・・でも、真路ちゃんは気付いてたねぇ。黒ろんだって。」
「ああ。」
あの状況で、どんな事情があろうと真路が小狼を放っておけない事は二人には分かっていた。言葉だけだったのは、相手が黒鋼だと分かっていたからだ。
―――すべき事があるんでしょう!君はここに死にに来たわけじゃないでしょう!
「それに、あの女は切羽詰まると口調が変わるからな。」
―――動くな!
「・・というか、それが本当の口調なんだろうけどな。」
黒鋼は真路の腹に刀を突きつけ、真路に首元に刀を突きつけられた時のことを思い出す。
あの戦いが長引かなくて、本当は良かったのだ。
彼女の手は小刻みに震えていた。続けていれば、黒鋼が明らかに手を抜くかしない限り、真路は黒鋼にやられるしかなかったはずだった。
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城内にはいると、サクラはもう目が覚めたようで、真路に走り寄ってくる。
「血だらけ!大丈夫!?」
「あ、いやこれは返り血です。血なまぐさいところを見せてしまいましたね・・。」
サクラは怪我はないと聞いて、安堵したようだった。
真路はもうすぐ後ろから来るはずの小狼の方を振り返りながら「それより・・」と言った。
「彼の方を治療してあげてください。薬箱、借りましたから。」
真路は薬箱をサクラに手渡す。
「私は手当て、下手くそですしね。」
にこりと微笑んだ。
その後ろから、案の定、傷だらけの小狼が戻ってきた。サクラは驚いて、駆けていき、部屋で小狼の治療を始めた。
「・・では、真路の傷の手当てはこちらでさせよう。」
「・・・有り難う御座います。」
黒鋼の刀を握ったときの傷と、後はかすり傷だけだったが、今は、二人から離れるべきだし、離れておきたい気がした。
「しかし、一緒にいなくて良かったのか?」
「お邪魔してしまいますよ。」
通りすぎ際の二人は何だか和やかだった。
「・・それに。私はあの二人を見ていると、何だか自分が本当に・・何だか、劣等感ばかり感じてしまうんですよ。」
いつもと変わらない調子で言ったが、声は明るくならなかった。
「小狼も、サクラも、なんていうか・・純粋で、真っ直ぐで・・・強いから。」
そうしていつの間にか、顔は少し俯かせてしまった。
「・・私は今まで、自分ばかりになってましたから。今一番大切だと、思っていた人ですら、私は自分の浅はかな願いよりも上に選ぶことが出来なかった・・・。」
少し間をおいて、「・・最悪ですね。」と言った。
「それから言えば、私もそういう事になるな・・。」
真路は驚いて、阿修羅王の横顔を見たが、それ以上言及するつもりが無いのを察して、真路はそれ以上は聞かなかった。
しばらく二人は黙っていたが、不意に真路が口を開いた。
「・・”強さ”って、一体何なんでしょうね?」
あまりにも唐突だったが、阿修羅王は特に驚いた様子はなかった。
「力の強さは見れば分かります。でも、心の強さ、なんてどうしたら強いことになるんでしょうか?」
「・・何故だ?」
「昔、少なくとも私が思う中で心が強い人がいました。でもだからこそ、その命を縮めた・・。」
―――私は戦う力を得ても、やっぱりまだ無力だよ。
―――僕は地位も権力もないただの子供だけど・・
「身を滅ぼすとしても、それは強さと言えるんでしょうか?そもそも、私の考える”強さ”は他の人が考えるものとは違っているんでしょうか?」
―――でもせめて、大切な人だけは、この手で守りたいって思うの。
―――この戦争は絶対僕達の代で終わらせる。その為に、僕は戦おうって思ってる。
久人の言った事は大それすぎていて、無理だろうと思ったけれど、それでも凪と変わらず、真っ直ぐでいい目をしていた。
「・・私は、小狼君を見ていて、始め、ああ彼もまた、あの子の行った道を辿るんだなって、思いました。」
阿修羅王は黙って聞いていた。
「でも、彼は危なっかしいけど、生き続け、そしてやると決めたことをやっています。」
「探しているものを手に入れる事、か。」
「はい。・・・他の一緒に旅している人達も強いけど、それぞれ違った強さだなって思いました。特に、その一人は見ていて不安な強さ、ですけど・・・。」
真面目な顔を少し俯け、そして上げた。
「・・旅してるうちに、そもそも”強さ”って、何なんだか、分からなくなってきてしまいました。」
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真路について色々と明かされましたね。
この話は結構苦労しました・・・;
書くことは決まってたんですが、台詞とかが大変でした;
えっと、しばらくは真路の過去と旅の目的とか、そっちが主になってくると思います。今、ファイとは離れてますし・・。
紗羅の国2度目辺りから色々と縺れてくる予定・・
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またもや剣の話をします。
言わずとも、大体分かるとは思いますが、真路が最初に持っていた、長刀などは普通のよりも相当重いです。確か、昔は馬に乗って使ったように聞いた気がしますが、普通はなかなか抜けるものではないと思います。
しかも重くて、真路は使うの、大変だったでしょうね・・。
小柄な真路がどうやって抜いてたかというと・・・・本編でやるつもりでしたが、多分やれないと思うので、ここで言ってしまおうかと思います。(おい;)
ベルトにつけていましたよね、最初。あれはベルト、といっても、あの・・例えは微妙ですが、工事現場のおじさんが道具とか引っかけてるのがあるじゃないですか。
あんな感じで、引っかけてる部分が動くんですね。
それをぐいっと後ろに回して、持ち手(柄巻)をぐっと下げて、鞘を左手で引っ張りつつ、右手で勢いよく抜きます。そうすると、なんとか抜けるんです。多分。(論理上?では)
もう、そんなことやってる場合では無いときは、鞘をどこかに投げ飛ばすような感じで無理矢理やってたりもしました。
・・何だか、真路編はこの裏話とかの部分が余計に長い気がしている今日この頃です。実際のものを引用しているのものが多いからでしょうか?
レミニス編を書くときも、魔術とか色々調べたんですが・・何だか、小説とか、よく分からないものまで出てきて・・使えなかったので。
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